赤松の間に二三段の紅（こう）を綴った紅葉（こうよう）は昔（むか）しの夢のごとく散ってつくばいに近く代る代る花弁（はなびら）をこぼした紅白（こうはく）の山茶花（さざんか）も殘りなく落ち盡した。三間半の南向の椽側に冬の日腳が早く傾いて木九*九*藏*書枯（こがらし）の吹かない日はほとんど稀（まれ）になってから吾輩の晝寢の時間も狹（せば）められたような気がする。

吾輩は御馳走（ごちそう）も食わないから別段肥（ふと）りもしないが、まずまず健康で跛（びっこ）にもならず九*九*藏*書にその日その日を暮している。鼠は決して取らない。おさんは未（いま）だに嫌（きら）いである。名前はまだつけてくれないが、欲をいっても際限がないから生涯（しょうがい）この教師の家（うち）で無名の貓で終るつもりだ。

車屋の黒はそのhttps://read.99csw.com後（ご）跛（びっこ）になった。彼の光沢ある毛は漸々（だんだん）色が褪（さ）めて抜けて來る。吾輩が琥珀（こはく）よりも美しいと評した彼の眼には眼脂（めやに）が一杯たまっている。ことに著るしく吾輩の注意を惹（ひ）いたのは彼の九九藏書元気の消沈とその體格の悪くなった事である。吾輩が例の茶園（ちゃえん）で彼に逢った最後の日、どうだと雲って尋ねたら「いたちの最後屁（さいごっぺ）と餚屋（さかなや）の天秤棒（てんびんぼう）には懲々（こりごり）だ」といった。

主人は毎日學校へ行く。帰ると九九藏書書斎へ立て籠（こも）る。人が來ると、教師が厭（いや）だ厭だという。水彩畫も滅多にかかない。タカジヤスターゼも功能がないといってやめてしまった。小供は感心に休まないで幼稚園へかよう。帰ると唱歌を歌って、毬（まり）をついて、時々吾輩を尻尾（しっぽ）でぶら下げる。